スピッツの曲が、記憶の引き出しを開けた
先日、スピッツのベスト盤を聴いていた時のことです。
その中に収録されていた「青い車」という曲。
初めて聴いたはずなのに、なぜか懐かしい。
そして、サビに差しかかった瞬間――
「君の青い車で海へいこう~♪」
そのフレーズで、私は一気に昭和の頃へ引き戻されました。
「青い車」と聞いた瞬間、思い出したのです。
――青いマツダ・ファミリア。
そして、あの人のことを。
二十歳の私と、電話の向こうの彼女
時は昭和58年。
私は二十歳そこそこの若造でした。
親元を離れ、自動車ディーラーに就職し、サービス工場で受付や書類の仕事をしていました。
その業務のひとつが、自賠責保険の発行。
出入りしていた保険会社のひとつ、C社。
そこにいた担当の女性と、私は電話でやり取りをするようになりました。
最初はもちろん仕事の話だけ。
でもいつの間にか、
- 天気の話
- ちょっとした雑談
- 他愛のない会話
そんなやり取りが増えていきました。
そしてある日、彼女がふっと言ったのです。
「今度、仕事が終わったら、ご飯でもどうですか?」
初めて会った日、青い車の彼女
待ち合わせはファミリーレストラン。
電話でしか知らない相手。
当然、緊張しました。
私はその頃――
彼女いない歴、更新中。
女性から食事に誘われるなんて経験は、親戚のおばさん以外ありませんでした。
店に入って、彼女の声を聞いた瞬間、すぐにわかりました。
「あ、この人だ」
髪はソバージュ。
私より三つか四つ年上。
そして何より、電話のままの、あの明るい雰囲気で素敵な人でした。
彼女は、青いファミリアに乗っていました。
距離が縮まる時間と、募っていく想い
それから、何度か会うようになりました。
- 食事
- ドライブ
- バイクの後ろに乗せて走った海岸通り
少しずつ距離が縮まっていく時間。
そして私は、気づいてしまいます。
――好きになっている。
告白と、彼女の「ごめんなさい」
ある晩、私は意を決して気持ちを伝えました。
「好きです」
しかし、彼女の様子はどこかおかしい。
うつむいたまま、ただ繰り返す言葉。
「ごめんなさい……」
問いただすと、彼女は静かに言いました。
「結婚を決めた人がいるの」
頭が真っ白になりました。
思わず口をついて出た言葉。
「じゃあ、なんで俺を誘ったんだよ」
彼女はただ、同じ言葉を繰り返すだけでした。
「ごめんなさい……」
すれ違いの理由と、若さの不器用さ
今なら、少しわかる気がします。
結婚を前にした不安。
迷い。
揺れる気持ち。
そんな時に、たまたま現れた、話しやすい若い男。
それが、私だったのかもしれません。
でも当時の私は、そんなこと理解できるほど大人ではありませんでした。
ただただ、傷ついていたのです。
「白い港」での別れ
ちょうどその頃、私に転勤の話が出ました。
海を渡り、地元へ戻ることに。
荷造りをしながら、何度も繰り返し聴いていた曲があります。
大瀧詠一の「白い港」。
あのメロディと一緒に、ひとつの光景が焼き付いています。
出港する船の上の私。
岸壁には、彼女の姿。
青いファミリアの横で、こちらに手を振っています。
私も手を振り返す。
それが、最後でした。
「さようなら・・・」
四十数年後、思いがけず見つかったもの
つい最近のことです。
家の倉庫をカミさんが整理していた時、古いポーチが出てきました。
中を開けると、一枚の写真。
――あの海岸通り。
――バイクの後ろに彼女を乗せて走った、あの日の記録。
撮ったことは覚えていました。
でも、こんな形で再び出てくるとは思っていませんでした。
会えない人と、会いたい気持ち
もう会うことはないでしょう。
それはわかっています。
でも――
ほんの少しだけ、会ってみたい気持ちもある。
あの頃の自分を知っている、数少ない人だから。
まとめ
青い車。
白い港。
そして、若かった頃の私。
どれも、もう戻ることはできません。
けれど、不思議なものです。
あの時の苦しさや切なさも、今ではどこかやわらかい記憶に変わっています。
人生の中には、
うまくいかなかった恋も、ちゃんと意味を持って残る。
そう思えるようになったのは、
私がそれなりに歳を重ねてきたからかもしれません。
彼女に惹かれていく一方で、どこか自分に自信が持てない自分もいました。
ガリガリだった私と「白いギター」コンプレックスの記憶 の頃から、その感覚はずっと続いていたのかもしれません。

