少年ジャンプや少年サンデーを、最後のページまで読み終える。
そして、何気なく裏返す。
一面に印刷された色々な小物(グッズのようなもの)の通販のページ。
そこに広がっていたのは、漫画とはまったく別の世界でした。
「〇✕企画」「◆▲商事」
今思えば、怪しげな会社名。
異様に力の入ったフォント。
そして、「誰でもできる!」「一瞬で消える!」といった、少し大げさなコピー。
筋トレ器具、シーモンキー、超能力開発セット。目が光るドクロのキーホルダー。
そして、赤いハンカチが消える手品用品。
最新の漫画で興奮した後に待っているのは、
現実を少しだけ変えてくれそうな、不思議な通販の世界でした。
あの裏表紙は、広告というよりも、
少年だった私たちにとっての“異世界への入口”だったのかも。
切手という名の「少年の通貨」
当時、その世界へ入るための通貨は、現金ではありませんでした。
必要だったのは、切手です。
「商品代金分の切手を同封してください」
その一文に、妙な緊張感がありました。
親に頼むわけにもいかず、
お小遣いを少しずつ貯め、
小銭を握りしめて郵便局へ行きます。
窓口で切手を買い、
家に帰って封筒に並べて貼る。
何枚貼れば足りるのか。
貼りすぎていないか。
足りなかったらどうなるのか。
封筒を投函した瞬間、
魔法への契約が完了したような気がしました。
あれは買い物というより、
一種の儀式だったのかもしれません。
魔法の正体|プラスチックの卵
そして、待ちに待った約2週間後。
ついに届く、薄くて軽い茶封筒。
胸を高鳴らせながら開封すると、
中から現れたのは――
穴の空いた、プラスチックの卵。
赤いハンカチが消える、あの有名な手品道具です。
「……なーんだ」
正直な感想は、落胆でした。
想像していた“魔法”とは、あまりにも違っていたからです。
けれど、そこで終わらない。
「せっかくお小遣いで買ったものだから」「届くまでこんなに待ったんだから」
説明書を読み、
何度も練習し、
どうすれば本当に消えたように見えるかを考える。
チープな種明かしを、
本物の魔法に変えようとする執念。
それもまた、あの通販広告が与えてくれた体験だったのです。
「待つ」という名の極上エンタメ
今思えば、一番楽しかったのは、
商品が届くまでの時間だったのかもしれません。
学校から帰ると、
カバンを放り出して郵便受けを開ける。
今日も来ていない。
明日こそは来るかもしれない。
その2週間の間、
少年の頭の中では、すでに手品は成功しています。
クラスで披露し、
みんなが驚き、
ちょっとしたヒーローになる未来。
空っぽの郵便受けを前に、ため息をつきながらも、
その想像を膨らませる時間こそが、
極上のエンターテインメントでした。
今のように、
「発送しました」「明日届きます」
という通知はありません。
だからこそ、待つ時間が、想像力で満たされていました。

まとめ:便利さと引き換えに失ったもの
今は、クリック一つで何でも届きます。
翌日には手元にあり、
開封した瞬間に、もう次の欲しいものを探している。
便利になりました。
確実になりました。それが当たり前になりました。
けれど、あの頃の
2週間待って手に入れたチープな魔法ほど、
今の私たちは何かに熱中できているでしょうか。
プラスチックの卵は、
”ありがたさ”とともにいつの間にかどこかへ消えてしまいました。
それでも、
ポストの前で感じた胸の高鳴り、
封筒を開ける瞬間の期待と不安。
あの感覚は、
今も心のどこかに、生きています。
少年誌の裏表紙広告は今もあるのかわかりませんが、
けれど、
「待つことで膨らむ夢とありがたさ」までは、
消えてほしくないものですね。
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