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【絶滅危惧物】食卓の小さなテント「ハエ帳(ちょう)」 ラップでは包みきれない 「誰かを待つ」 という家庭の情愛

【絶滅危惧物】ハエ帳とは?昭和の食卓にあった「待つ愛情」を包む食卓カバー 昭和レトロ慣用句/絶滅危惧語

ラップでは包みきれなかった、「誰かを待つ」という家庭の情愛

夕方、食卓の上に、ぱっと傘のように広げられる青や白の網。
それがあるだけで、そこだけ空気が変わったように感じられました。

ハエ帳(はえちょう)は、単なる虫除けの道具ではありませんでした。
あれは、「まだ食事は終わっていませんよ」という、静かな合図だったのです。

仕事で帰りが遅くなるお父さん。
部活や塾で夕食に間に合わない子ども。

「あなたの分は、ここにあります」

ハエ帳は、そう言葉にせずに語りかける、家族の意思表示でした。

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風を通す「傘」という発明

ハエ帳の構造は、とてもシンプルです。
軽い骨組みに、青や白のメッシュ生地。
折りたたむとぺたんと薄くなり、広げると食卓をすっぽり覆う。

電気も使わず、音も立てず、
それでいて虫や埃だけを、きちんと遠ざける。

しかも完全に密閉しないため、
料理の匂いや、ほんのり残った温もりは、外へ逃がしていきます。

夏の夕暮れ。
窓から入る風に、メッシュがわずかに揺れる光景は、
今思い出しても、どこか穏やかで、安心できるものでした。

「見える」ことが生む、安心感

ハエ帳の中身は、隠されていませんでした。
魚の煮付け、味噌汁の椀、少し冷めたご飯。

メッシュ越しに、すべてが見える。

これが、とても大事なポイントだったのだと思います。

ラップのようにぴったり覆ってしまうと、
料理は「保存物」になります。

けれどハエ帳の下の料理は、
「今は席を外しているだけ」という存在感を保っていました。

見えるからこそ、
「ちゃんと用意してある」
「待ってくれている」

そんな気配が、食卓に残っていたのです。

食卓は、まだ閉じていなかった

今の感覚で言えば、
「先に食べた人は、もう終わり」
「遅い人は、冷蔵庫から出して温め直す」

それが当たり前かもしれません。

けれど、ハエ帳のある食卓は違いました。

食事は、全員が揃って初めて終わるもの
たとえ時間差があっても、
同じ料理を、同じ食卓で食べることに意味がありました。

ハエ帳は、その時間差をつなぐ「橋」のような存在だったのです。

そっと持ち上げる瞬間の高揚感

遅く帰ってきて、
ハエ帳をそっと持ち上げる。

中から現れる、自分の分の料理。

あの瞬間には、
「お帰り」
「ちゃんと待ってたよ」

そんな声が、重なって聞こえた気がしました。

虫除けのための道具なのに、
なぜか少し胸が温かくなる。

ハエ帳には、
母の声や、家族の視線が染み込んでいたのだと思います。

消えていった理由、失われた風景

冷蔵庫は大きくなり、
ラップは手軽で、
家は高気密になりました。

合理的で、清潔で、便利です。

その代わり、
「誰かの帰りを待つために、料理を置いておく」
という風景は、少しずつ姿を消しました。

保存はできても、
待つことは、保存できなかったのかもしれません。

まとめ:ハエ帳が包んでいたもの

ハエ帳は、料理を包んでいたのではありません。
包んでいたのは、

  • 帰りを待つ気持ち

  • 家族の時間

  • 同じ食卓を囲むという意志

でした。

あの小さなテントは、
家族の情愛を、そっと覆う「心の傘」だったのです。

あなたがハエ帳を持ち上げた時、

その中には、何が入っていましたか?

そして、その向こうには、
誰の顔が思い浮かびますか。

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