ビジネスの世界でよく耳にする「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」。
どちらも“海”を舞台にした戦略用語ですが、
実はこの「色」にこそ、人間の心理と行動を映す深い意味が隠れています。
「レッドオーシャン」は、
競争が激しく、血で血を洗うような市場を意味し、
「ブルーオーシャン」は、
まだ誰も進出していない穏やかな新市場を指します。
けれど、この二つの言葉は単なるビジネス理論にとどまりません。
私たちが日常の中でどう生き、どう選択し、
どんなリスクを恐れ、どんな可能性を信じるのか・・・
そんな“心の色”を映す言葉でもあるのです。
「レッドオーシャン」とは?競争の熱と“危うさ”を映す赤の心理
「レッドオーシャン(Red Ocean)」とは、
すでに多くの企業が参入し、激しい競争が繰り広げられている市場を指す言葉です。
直訳すると「赤い海」。
それはまるで、ライバル同士がシェアを奪い合う中で、
“血で染まった海”のような状態を比喩的に表現したものです。
出典は戦略論の名著『ブルー・オーシャン戦略』
この言葉は、2005年に出版された
キム・W・チャン、レネ・モボルニュによる著書
『ブルー・オーシャン戦略(Blue Ocean Strategy)』に由来します。
この本の中で「レッドオーシャン」は、
すでに確立された市場・業界の中での競争を表し、
新しい価値を創造する「ブルーオーシャン」と対比して語られました。
赤の持つ“熱”と“危険”の二面性
心理学的に「赤」は、情熱・エネルギー・闘争を象徴する色。
人間の本能的な感情を刺激し、行動を促す力があります。
たとえば、赤いロゴや広告は購買意欲を高める効果があり、
スポーツや政治の世界でも「赤」はチームカラーとして多く採用されます。
しかし一方で、「赤」には危険・焦り・警戒のイメージもあります。
レッドオーシャンはまさにその二面性を体現している言葉。
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熱気があるほど、競争も激しい。
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成長の勢いがあるほど、疲弊も早い。
“赤”は成功のエネルギーを象徴すると同時に、
消耗とリスクの象徴でもあるのです。
「レッドオーシャン思考」は悪ではない
「レッドオーシャン=避けるべき市場」と誤解されがちですが、
実際には、すでに需要が確立されているという強みもあります。
競争の中にいるからこそ磨かれる技術、
模倣を超えるために生まれる創意工夫。
つまり、レッドオーシャンとは“危うくも刺激的な現場”。
人間の野心と成長欲を映す“赤”の海なのです。
「レッドオーシャン」とは、
血のにおいのする戦場でありながら、
人が最も強く、生き生きと動く場所でもある。
「ブルーオーシャン」とは?
「ブルーオーシャン(Blue Ocean)」とは、
まだ競争相手が少なく、新たな市場や価値を自ら創り出す領域を意味します。
「レッドオーシャン」が血のように赤い既存市場だとすれば、
「ブルーオーシャン」は、
誰も航海していない青く澄んだ海——つまり未開拓の可能性そのものです。
新しい価値を「創る」戦略
ブルーオーシャン戦略の本質は、
“競争から抜け出すこと”ではなく、
競争のルールそのものを変えることにあります。
たとえば——
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任天堂が「Wii」で「ゲーム=若者向け」という常識を覆した
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スターバックスが「コーヒーを飲む場所」を「くつろぐ体験」に変えた
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Airbnbが「宿泊」を「共有の文化」にした
これらはすべて、「レッドオーシャン」の中に見出した
“新しい青”の発想なのです。
“青”がもたらす心理効果
心理学的に「青」は、冷静・誠実・知性を象徴する色。
人の心を落ち着かせ、視野を広げる効果があります。
青空や海のように、
「青」には境界を感じさせない広がりがあります。
それはビジネスにおいても、
“既存の枠を超えて考える”マインドセットを刺激します。
「赤」は感情を燃やす色。
「青」は思考を深める色。
ブルーオーシャン戦略が「冷静な創造」を重んじるのは、
まさに“青”という色の心理的特性を映しているのです。
“静けさ”の中に潜む勇気
ただし、ブルーオーシャンは常に穏やかなわけではありません。
競争がないということは、需要もまだ確立していないということ。
そこには未知への不安も伴います。
しかし、
誰もいない海にこそ、
誰にも真似できない景色がある。
それを信じて舵を切る勇気こそが、
ブルーオーシャンの原動力なのです。
「ブルーオーシャン」とは、
静けさの中にある“自由の広さ”。
勇気を出して進む者だけが、その青を手に入れられる。
「赤」と「青」が映すビジネス心理
「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」は、
しばしば“どちらを選ぶか”という対比で語られます。

しかし現実のビジネスや人生では、
この二つはどちらか一方に分けられるものではありません。
「赤」の熱と「青」の静けさのあいだにある現実
市場には、必ず“赤”と“青”の両方の要素があります。
どんな新市場も、やがて他者が参入すれば“赤”になる。
逆に、どんな競争市場にも“青”を生み出す隙間はある。
つまり、
「赤」と「青」は対立ではなく、循環する関係なのです。
赤がなければ、青は生まれない。
青がなければ、赤は煮詰まる。
この往復こそが、ビジネスの進化を生み出しています。
色が映す“心の状態”
ビジネスにおける選択は、同時に心理の選択でもあります。
| 状況 | 心の色 | 特徴 |
|---|---|---|
| レッドオーシャン | 赤 | 熱意・即断・攻めの姿勢 |
| ブルーオーシャン | 青 | 冷静・探求・創造の姿勢 |
| その中間 | 紫(Red+Blue) | バランス・調和・長期的視点 |
“紫”は、赤と青の融合色。
つまり、競争の中で冷静に判断し、創造を忘れない状態です。
成功する人や企業は、この「紫の思考」を持っているとも言えるでしょう。
現代の海は“グラデーション”
かつては「競う」か「逃れる」かという二択でしたが、
今の市場はもっと曖昧で流動的です。
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競争しながら協働する
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既存市場に新しい価値を重ねる
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利益だけでなく、社会的意義を見出す
それはまるで、
赤と青が混ざり合う夕暮れの海のような時代。
境界があいまいだからこそ、自由に航路を描けるのです。
「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」は、
競争と創造のメタファー。
私たちはそのあいだを、日々の選択で泳いでいるのです。
まとめ
「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」。
二つの言葉は、単なるビジネス戦略を超えて、
私たちの生き方そのものを映しています。
“赤”は挑戦と情熱。
“青”は創造と静けさ。
そのどちらもが、人の心と社会を動かすエネルギーです。
今の時代に必要なのは、
「赤か青か」を選ぶことではなく、
自分なりの色を混ぜていく柔軟さです。
挑戦の熱と、創造の静けさ。
その両方を併せ持つとき、
初めてビジネスも人生も、深い色を帯びていきます。
海の色は一つではない。
朝焼けも夕暮れも、すべて航路の一部。
「レッドオーシャン」と「ブルーオーシャン」は、
進む勇気を色で語る、現代の寓話なのです。

