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【昭和レトロ慣用句】「潰しがきかない」という生き方 :一つの道に命を預けた、不器用な大人たちのプライド

「潰しがきかない」とは?昭和の職人に宿っていた不器用な誇り 昭和レトロ慣用句/絶滅危惧語

「潰しがきかない」

この言葉を聞くと、どこか残念そうな響きを感じるかもしれません。
しかし、もともとの「潰し」とは、
金属を溶かし、別の形に作り直すことを意味していました。

金や銀なら、潰しても価値が残る。
形は変わっても、素材として再利用できる。

一方で、
その形にしか価値がないものは、
潰した瞬間に、すべてを失ってしまう。

この感覚が、やがて人の生き方にも重ねられ、
「別の仕事では通用しない」
「他に使い道がない」
という意味で使われるようになったのです。

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昭和における「潰しがきかない」は、侮蔑ではなかった

昭和の時代、
「潰しがきかないねぇ」と言われる場面には、
独特の空気がありました。

完全な否定ではない。
かといって、手放しの称賛でもない。

ため息まじりで、
少し心配そうで、
でも、どこか誇らしげ。

「あの人は、その道じゃ一流なんだけどね。
他じゃ、潰しがきかないからなぁ」

その言葉の裏には、
一つの道を極めすぎた人間への、敬意と不安が同時に含まれていました。

それは「不器用だな」という評価であると同時に、
「そこまでやり切ったんだな」という認め言葉でもあったのです。

「替えがきかない」人たちの背中

考えてみれば、
「潰しがきかない」と言われる人ほど、
その道では替えがきかない存在でした。

言葉数は少ない。
融通も利かない。
でも、手元の仕事だけは、誰にも真似できない。

弟子たちは、
その背中を見て学びました。

教え方は荒っぽくても、
仕事は一切、誤魔化さない。

便利屋になることを拒み、
「これしかできない」ことに、
人生を丸ごと賭けてきた人たち。

彼らの「潰しのきかなさ」は、
弱点ではなく、頑固な美学だったのです。

曲芸のような出前と、「潰しがきかない」技

前回触れた「そば屋の出前」を思い出してみてください。

片手でハンドルを握り、
肩には何段ものせいろ。
器一つこぼさず、街を駆け抜ける。

あれはもう、配達ではなく曲芸でした。

では、あの出前の達人が、
突然オフィスビルに放り込まれ、
「パソコンで資料を作れ」と言われたらどうでしょう。

おそらく、うまくはいかない。

でもそれは、能力が低いからではありません。
一つの世界を、極めすぎた結果なのです。

潰しがきかない人ほど、
その世界では、誰にも潰せない存在だった。

この逆説こそが、
昭和の職人たちの凄みでした。

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片手で何段ものせいろを運び、路地を風のように駆け抜ける「そば屋の出前」。あの驚異的なバランス感覚を誇る職人たちこそ、まさに「潰しがきかない」生き方の象徴でした。一つの道を極めた者の凄みと不器用さは、表裏一体。効率を求める現代では失われつつある、あのひたむきな職人の姿をこちらで振り返ってみてください。

何でもできる時代の、別の不安

現代は、
「潰しをきかせる」ことが推奨される時代です。

リスキリング。
副業。
スキルの掛け算。

確かに、それは合理的です。
変化に強く、生き残りやすい。

けれど一方で、
こんな不安も生まれています。

何にでもなれるはずなのに、
何者にもなれていない不安。

浅く広い海を泳ぎ続け、
どこにも足が着かない感覚。

昭和の頑固親父たちが掘っていたのは、
狭くても、底が見えないほど深い井戸でした。

溶かしても形が変わらない「芯」を持つ

「潰しをきかせる」ために、
自分を薄め続ける生き方もあります。

けれど、
溶かしても形が変わらないほどのを持つこと。
それもまた、一つの強さです。

「潰しがきかない」は、
決して蔑称ではありません。

それは、
自分の人生を、特定の何かに全賭けした者だけが持つ、
美しい傷跡
なのです。

まとめ:不器用な大人たちへの讃歌

「潰しがきかない」という言葉の奥には、
昭和を支えてきた、
不器用で、頑固で、誇り高い大人たちの姿があります。

令和の今、
あえて問い直してみたくなります。

――あなたには、
良い意味で「潰しがきかない」ものが、ありますか?

「これだけは誰にも負けない」
そう言える何かを持つこと。

それは今も、
静かで、確かな強さなのかもしれません。

私のじいちゃんは村の鍛冶屋で、頑固で無口で、ばあちゃんと口喧嘩ばかりしていた、文字通り「潰しのきかない」職人でした。他のことはてんでダメだったけれど、鉄を打つ時だけは神様のように見えた祖父でした。

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