「まあまあ、もう水に流そうよ」
こんなセリフをドラマや日常会話で耳にしたことがある人も多いでしょう。
過去の争いやわだかまりをなかったことにする――
この「水に流す」という言葉には、日本人特有の感情の整理方法が込められています。
今回は、この表現の意味や由来、正しい使い方、そして日本人の人間関係における「感情処理」としての背景について解説します。
「水に流す」の意味とは?
「水に流す」とは、
過去の出来事やトラブルをなかったことにして、気にしないようにすること
を意味する表現です。
主に、人間関係における争いごと・不和・誤解などを、時間の経過や和解によって「もう気にしない」「なかったことにしよう」とする気持ちを表します。
類語でいうと…
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根に持たない
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許す
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忘れてやる
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笑い飛ばす
などに近い意味合いになります。
なぜ「水」なのか?言葉の由来
「水に流す」という表現は、川の水が過ぎ去ってしまえば戻らないという自然の現象にたとえた言い回しです。
昔から、日本では「水」はすべてを洗い流す清めの象徴でもありました。
神事などでも「禊(みそぎ)」として水を使うのは、心や体の穢れ(けがれ)を流すという信仰に基づいています。
つまり、「水に流す」とは、
心の中の嫌な記憶や怒り、わだかまりを、川に流してしまう=忘れる・許す
というイメージなのです。
例文で学ぶ「水に流す」の使い方
会話の中での使い方
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「この前のことは水に流してくれないか?」
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「もういいよ。水に流すことにする」
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「せっかく再会したんだし、水に流して仲直りしようよ」
いずれも、相手に和解の意志を伝えるときや、怒りを収めたいときに使われます。
ビジネスシーンではどう使う?
ビジネスの場ではややカジュアルな表現になるため、「和解」「解決」「円満」などの言い換えが好まれますが、社内のやわらかい会話では以下のように使われることがあります。
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「今回の件は水に流して、次に活かしていこう」
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「お互い水に流して、前向きに話を進めましょう」
ただし、立場や関係性に注意が必要です。
「水に流す」は、上からの許しのように聞こえる場合もあるため、使い方には配慮を。
日本人の「感情処理文化」との関係
「水に流す」は、日本人の人間関係における「曖昧さの美徳」に通じる表現です。
なぜ日本人は「白黒つけずに流す」?
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はっきり謝罪や弁明を求めるより、「黙って許す」方が角が立たない
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争いや対立を長引かせたくないという「和」の精神
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体裁や空気を重んじる文化
これらの価値観が、「水に流す」という行動や表現を理想的な解決法として根付かせてきました。
外国では少ない?この感覚
英語には「forgive and forget(許して忘れる)」という表現もありますが、
日本の「水に流す」ほど“あえて曖昧に終わらせる”というスタンスは一般的ではありません。
欧米文化では、問題は「解決する」もの。
一方、日本では、「解決せずとも、気持ちを切り替えて前に進む」ことが重視される場面が多いのです。
使うときの注意点
「水に流す」は便利な言葉ですが、本当に納得していない相手に言うと逆効果になることもあります。
たとえば、
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「もう水に流してくれよ」→ 相手がまだ怒っているときには火に油
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「私は水に流したのに」→ 一方的な押しつけに聞こえる
このように、「水に流す」は相手との温度差に敏感な表現でもあります。
言い換え・類似表現まとめ
表現 | ニュアンス | 使用シーン |
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根に持たない | 感情的なしこりがないこと | カジュアルな場面 |
笑って済ませる | 軽く流す | 軽いトラブルに |
手打ちにする | 決着をつける | ややフォーマル |
仲直りする | 関係の修復 | 全体的に使いやすい |
まとめ:許すことで前に進むための言葉
「水に流す」という表現は、
感情的な整理と、前向きな関係の再構築を促すための言葉です。
ときには言葉にせず、
ときには「もういいよ」と一言だけで、
人間関係をそっと修復していく――。
そんな日本人らしいやさしさや配慮の詰まった言い回しだといえるでしょう。