「よいしょ!」
重い荷物を持ち上げるとき、思わず口から出るこの言葉。
実は「よいしょ」は、単なる掛け声ではありません。
もともとは力士が四股を踏むときの掛け声に由来し、そこから“力を込めるときの気合”を表すようになりました。
そして時代が進むにつれ、「ヨイショする(=持ち上げる)」という人を立てる表現にも派生していったのです。
この記事では、「よいしょ」という一言の中に込められた身体と言葉のつながりを、語源・使い方・心理の面からじっくり見ていきます。
「よいしょ」の語源と由来
「よいしょ」は、もともと相撲や力仕事の現場で使われていた掛け声です。
力士が四股を踏む際に「ヨイショ」と声を上げることで、
自分の気持ちと体の動きを一致させ、力を込める。
この“リズムのことば”が庶民にも広がり、
「重いものを持つとき」「立ち上がるとき」に自然と出る言葉になりました。
古くは江戸時代の文献にも「よいしょ」「えいしょ」という掛け声が見られ、
もともとは仏教の念仏「南無阿弥陀仏」や「よいしょー(えいしょー)」などの作業唄が語源の一説とも言われます。
つまり「よいしょ」は、
力のリズムと祈りのリズムが融合した言葉なのです。
力を込めるときの「よいしょ」
現代でも「よいしょ」は、
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荷物を持ち上げるとき
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立ち上がるとき
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体を動かすとき
などに自然と使われます。
このときの「よいしょ」には、
自分への合図という意味があります。
人は体に負荷をかける前に声を出すことで、
呼吸を整え、筋肉を動かすタイミングをつくります。
「よいしょ!」という一声には、
無意識のうちに“力を発動させるスイッチ”の役割があるのです。
人を持ち上げる「ヨイショする」
やがて「よいしょ」は、
“人を持ち上げる”=おだてる・褒めるという意味にも発展しました。
「上司をヨイショする」
「あの人はヨイショ上手だ」
このような使い方は、昭和以降に広まったものです。
背景には、上下関係の強い職場文化がありました。
「よいしょ」と声を掛け合いながら重いものを動かすように、
言葉の「ヨイショ」もまた、
“人を気持ちよく動かす”コミュニケーションの技だったのです。
「よいしょ」の心理的効果
「よいしょ」という言葉には、
単なる気合いではなく、人の心を整える作用があります。
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行動を促す自己暗示:「やるぞ」という気持ちのスイッチになる。
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場の空気をやわらげる:沈黙を破る小さなきっかけになる。
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共感のサイン:誰かの「よいしょ」に合わせて動くことで、リズムを共有できる。
つまり「よいしょ」は、
身体を動かすことばであり、人とつながることばでもあるのです。
「よいしょ」に宿る日本語のリズム
「よいしょ」は、日本語の音の特徴をよく表しています。
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「よ」:呼気を伴う柔らかい立ち上がり
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「い」:気合を集中させる鋭い響き
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「しょ」:息を抜きながら力を出す締めの音
この3音がひとつになることで、
自然と体が動くようなリズムを作り出しているのです。
言葉と身体が一致する——
それが「よいしょ」の持つ、日本語ならではの音の魔力です。
まとめ:「よいしょ」は“持ち上げる”言葉
「よいしょ」は、
もともと力士の掛け声として生まれ、
そこから体を動かす言葉、そして人を動かす言葉へと進化してきました。
その根底にあるのは、
「持ち上げる」ことの優しさです。
自分を持ち上げるときも、
人を持ち上げるときも、
そこには「がんばれ」という願いがこもっている。
つまり、「よいしょ」は——
日本語が持つ力とぬくもりのバランスを象徴する言葉なのです。

