実は、我々が普段カタカナで見る「チョコレート」という言葉、漢字で書く方法が存在します。
その漢字のバリエーションも、決して一つや二つではないんですよ。
そこでこの記事では、「チョコレート」の漢字表記とその背景について、詳しくご説明します。
漢字で表される「チョコレート」とは?
ご紹介した通り、「チョコレート」を表す漢字は単一ではなく、実に多様です!全部で12種類もの漢字表記が存在します。
例えば、「猪口齢糖」、「猪口令糖」、「猪口冷糖」、さらには「貯古齢糖」、「貯古令糖」、「貯古冷糖」、そして「千代古齢糖」、「千代古令糖」、「知古辣」、「知古辣他」、「楂古聿」、「血汚齢糖」といった具合です。
これらの漢字は、「チョコ」を意味する「猪口」「貯古」「千代古」「知古」などの異なる字と、さまざまな「レート」を意味する「齢糖」「令糖」「冷糖」などの語が組み合わされています。これにより、多くの表記が生まれているのです。
一見、複雑に見えますが、これらの漢字表記はそれぞれ「チョコレート」の特性や由来を象徴しています。
余談ですが、カカオの実を加工して作られるこのお菓子に関して、カカオ自体の漢字表記は「加加阿」とされます。
今回の辞書調べでは、「チョコレート」の具体的な漢字表記は記載されておらず、主にカカオから作られるお菓子としての説明にとどまっています。
これからも漢字の由来について詳しく見ていくことで、言葉の背後に隠された歴史や文化をより深く理解することができるでしょう。次項では、これら漢字表記の由来に焦点を当てて解説していきます。
漢字で表される「チョコレート」の由来を探る!
「チョコレート」には様々な漢字表記が存在しますが、全部で12種類ある中で、特に注目すべきは「猪口齢糖」、「猪口令糖」、「猪口冷糖」のグループです。
①「猪口齢糖」「猪口令糖」「猪口冷糖」の由来
この三つの漢字表記は、チョコレートが日本に初めて伝わった江戸時代から明治時代にかけての背景が影響しています。特に、「猪口齢糖」はチョコレートが広告を通じて初めて漢字表記された際に使用されたものです。
「猪口」という漢字が選ばれたのは、「ちょこ」の音から連想される唯一の適切な字であり、この字がチョコレートの「チョコ」部分に採用されました。そして、「レート」部分は当て字として、「齢」が選ばれ、「ト」にはお菓子の甘さを連想させる「糖」が用いられました。この「齢」は通常「れい」と読みますが、「レー」の音に近似させて用いられた形です。
その後、同じ「れい」の音を持つ異なる漢字「令」と「冷」が「猪口令糖」と「猪口冷糖」として、画数の少なさや視覚的な簡潔さから選ばれました。これにより、チョコレートを指す漢字表記は多様化し、それぞれが異なる時代や文化的背景を反映しています。
これらの漢字表記は、チョコレートの日本における広告史と密接に関連しており、その時代時代の文化や言語の変遷を映し出しています。
②「貯古齢糖」「貯古令糖」「貯古冷糖」の由来
明治時代にチョコレートが初めて日本で商業的に広告された際、「猪口齢糖」に加えて「貯古齢糖」という漢字表記も用いられました。
「貯古」という表記は、「貯金(ちょきん)」の「貯」と「古典(こてん)」の「古」を組み合わせたものです。この創造的な漢字の組み合わせは、「ちょこ」という音を表現するための工夫として採用されました。
レート部分については、「猪口齢糖」と同様に「齢糖」、「令糖」、「冷糖」の三つのバリエーションが存在しますが、「貯古齢糖」では主に「齢糖」が使われました。
③「千代古齢糖」「千代古令糖」の由来
次に、「千代古齢糖」や「千代古令糖」という表記について解説します。これらもまた、チョコレートの漢字表記として同時期に風月堂の新聞広告に登場しました。
「千代古」という表記は、「千代紙(ちよがみ)」の「千代」と「古典」の「古」から取られています。実際の発音は「ちよこ」となるため、完全に「ちょこ」と一致するわけではありませんが、広告上では便宜上この表記が採用されました。
「レート」部分については、「齢糖」および「令糖」が使用されていますが、「冷糖」は採用されていません。その具体的な理由は明らかではありませんが、おそらくは音の近似度や視覚的なバランスが影響している可能性があります。
これら多様な漢字表記の存在は、時代や文化的背景、そして言語の変遷を反映しており、チョコレートが日本でどのように受容され広まっていったかの一端を示しています。それぞれの漢字が持つ意味や響きが、チョコレートのイメージや受け入れられ方にどのように影響していたのか、深く掘り下げて考察することは非常に興味深いテーマです。
④「知古辣」「知古辣他」の漢字表記の起源
「知古辣」および「知古辣他」は、他の漢字表記が確立された後に導入されたものです。これらは単なる当て字として用いられており、その組み合わせはフランス語由来の「ショコラ」を示唆しています。
「知古辣」では、「知識(ちしき)」の「知」、「古典(こてん)」の「古」、そして「辣腕(らつわん)」の「辣」が採用され、「ち・こ・らつ」という音を形成しています。これはフランス語の「chocolat」に近い音を表現するための工夫と考えられます。
一方、「知古辣他」は、「他人(たにん)」の「他」を追加し、「ち・こ・らつ・た」という音を作り出しています。これは「chocolat」の最後の「t」を音として捉え、「タ」と表記したものと思われます。このように、フランス語の発音に忠実な形で当て字を作成する試みがなされていることがうかがえます。
⑤「楂古聿」の漢字表記の由来
「楂古聿」は、もっとも独特な漢字表記の一つで、明治時代の詩人・歌人である北原白秋に由来します。この表記は彼の歌集に掲載されていますが、漢字の組み合わせとしては一般的ではありません。
「楂」の読みは「さ」、「古」は「こ」として使われ、これもフランス語の「ショコラ」に対する当て字と思われます。ただし、「聿」の部分については一般的な読み方で「ち・こ・りつ」となる「律」と混同されることがあるようです。もしこの説が正しい場合、「楂古聿」の「聿」は、本来「律」とするべきところを誤って書かれた可能性があります。
これらの表記は、フランス語の発音に基づいて創作されたものであり、日本におけるチョコレートの受容と普及の過程で、言語的アプローチが如何に創造的であったかを示しています。それぞれの漢字表記が、時代背景や文化的なニーズに応じてどのように選ばれ、使われてきたのかを理解することは、日本における外来語の歴史を深く知る手がかりとなります。
⑥「血汚齢糖」の漢字表記の背景
最後に解説する「血汚齢糖」は、他の漢字表記と比べて特に興味深い背景を持ちます。この表記は、チョコレートの濃い茶色が「血」を連想させることから生まれたとされています。
当時、チョコレートの製造過程や原材料について正確な情報が少なかったため、奇妙な噂が広まることも珍しくありませんでした。その一つが、チョコレートが「牛の血を固めて作られたもの」という都市伝説でした。この噂が「血汚齢糖」という漢字表記に影響を与えたと考えられます。
この表記における「血」はチョコレートの色を指し、「汚す」はその濃厚さや深みを表している可能性があります。一方で「齢糖」は、他の多くの表記と同様に、甘さや砂糖の成分を示しています。
「血汚齢糖」の読み方については、「ちけがれいと」と「ちよごれいと」の間で異なる解釈が可能ですが、どちらにせよ、この表記はチョコレートにまつわる興味深いエピソードを物語っています。
「血汚齢糖」は他の漢字表記とは一線を画す独特の背景を持つことから、チョコレートの文化的受容とその進化の一端を垣間見ることができます。このように、各漢字表記は時代の文化や言語の変遷を反映しており、それぞれが異なるストーリーや意味を持っています。
まとめ
この記事では、「チョコレート」を漢字でどのように表記するか、そしてその由来について掘り下げてきました。全12種類の異なる漢字表記が存在し、それぞれに独特の背景や由来があります。
- 漢字表記一覧:
- 「猪口齢糖」
- 「猪口令糖」
- 「猪口冷糖」
- 「貯古齢糖」
- 「貯古令糖」
- 「貯古冷糖」
- 「千代古齢糖」
- 「千代古令糖」
- 「知古辣」
- 「知古辣他」
- 「楂古聿」
- 「、、」
これらの表記は、風月堂の新聞広告によるものが多いですが、詩人北原白秋による創作や、奇妙な都市伝説に基づくものまで多岐にわたります。漢字の多様性が、実際には「チョコレート」という言葉の普及を妨げる一因となった可能性も示唆されています。
これらの漢字表記の歴史を通じて、言語がどのように文化と相互作用し、時にはその進化を形作るかを見ることができます。参考になれば幸いです。