声をかけたいけれど、自信がない。
手を伸ばしたいけれど、ためらってしまう。
そんな瞬間、人は「おずおず」とした動きをします。
“おずおず”とは、
不安や緊張を抱えながらも、少しだけ前に進もうとする様子 を表す擬態語。
たとえば——
・彼はおずおずと手を挙げた。
・子どもがおずおずと近づいてくる。
・彼女はおずおずと本題を切り出した。
どれも、
“怖いけれど、がんばって一歩踏み出す”
そんな心の揺れが見えるシーンです。
「ためらい」と「勇気」のどちらも含んだ、
とても繊細な日本語なのです。
「おずおず」の意味と語源
「おずおず」とは、
ためらい・不安・緊張を抱えつつ、慎重に行動しようとする様子
を表す擬態語です。
動作そのものよりも、
心の状態(ためらい・こわごわ・自信のなさ)
が前面に出るのが特徴。
「おずおず」の意味を分解すると…
以下の3つの要素が同時に存在します。
① 不安
「失敗したらどうしよう」
「嫌われたら困る」
など、内面に小さな恐れがある。
② ためらい
行動を起こすまでに“躊躇(ちゅうちょ)”がある。
③ 小さな勇気
それでも少しだけ前に進む、控えめな一歩。
▼ 例文
・彼はおずおずと質問した。
・子どもがおずおずと近づいてきた。
・彼女はおずおずと口を開いた。
これらに共通しているのは、
「怖さが勝ってはいない」 という点。
完全に怯えているわけではなく、
“恐れながら、一応進む”という
微妙な心理のバランスを描いた言葉なのです。

語源:「おずる(怖じる)」が元
「おずおず」は、古語の 「怖(お)ずる」 が語源とされています。
「怖ず(おず)」=
-
怖がる
-
気後れする
-
おじけづく
この動詞の連用形「おずおず」が強調され、
“こわごわ・ためらいながら”
という意味になったと言われています。
語感のとおり、
おず(怖ず)+おず(反復で強調)
=「とても怖がりつつ動く」のニュアンス。
古語由来の擬態語らしい、
音で心の弱さを表す日本語です。
「おずおず」は“行動の遅さ”より“心の慎重さ”がメイン
「ゆっくり動く」というより、
心理的な“気後れ”が中心。
・緊張している
・自信がない
・どうすべきか迷っている
・相手の反応が怖い
・怒らせたくない
こうした心の動きが先にあって、
その結果として動作が小さく慎重になるイメージです。
「おずおず」とは、怖がりながらも前に進もうとする“内なる勇気”の表現。
動作の奥にある気持ちをそっと描き出す、日本語の美しい擬態語なのです。
「おずおず」と「おどおど」の違い
2つはどちらも“自信のなさ”が出た動作ですが、
心の状態がまったく異なります。
① 「おずおず」=不安はあるが、前に進む
【キーワード】
-
ためらい
-
控えめ
-
おそるおそる
-
小さな勇気
-
相手の様子をうかがいながら近づく
心の中で迷いや緊張はあるものの、
前に進もうとする力 が残っています。
▼ 例
・彼はおずおずと質問した。
→ 怖いけど、勇気を出して手を挙げた。
・子どもがおずおずと寄ってくる。
→ 少し怖いけど興味もある。
つまり「おずおず」は、
“弱さの中にある前向きさ” の表現。
② 「おどおど」=不安が強く、行動が縮こまる
【キーワード】
-
怯え
-
落ち着きのなさ
-
おびえ
-
自信喪失
-
逃げ腰
心理的な不安のほうが強く、
行動が抑制されてしまう 状態を表します。
▼ 例
・新入社員がおどおどしている。
→ 緊張しすぎて、動きも言葉もぎこちない。
・彼は上司の前でおどおどしている。
→ 怖がっていて、余裕がない。
こちらは、
“弱さが行動を止める” タイプの表現。
③ 心理の違いをひとことで言うと…
| 表現 | 心の状態 | 行動 |
|---|---|---|
| おずおず | 自信がないが、がんばる | 小さいけれど前に進む |
| おどおど | 不安が強すぎる | 行動が縮こまる・動けない |
「おずおず」は一歩前へ、
「おどおど」は一歩下がる、
そういう心理の差があります。
④ 使い分けのポイント
-
前向きな弱さ → おずおず
-
後ろ向きな弱さ → おどおど
どちらも“不安”を含む言葉ですが、
方向性がまったく違うため、文章のニュアンスが大きく変わります。
「おずおず」は、弱さの中にある“ささやかな勇気”。
「おどおど」は、不安が強くて“行動が縮む状態”。
この違いをおさえるだけで、
表現の深みがぐっと増します。
現代での使われ方:“控えめに前へ進む人”をやさしく描く言葉
「おずおず」という言葉は、
古風な響きをもちながらも、
現代のSNSや会話でもよく使われています。
その理由は、
“自信はないけど、がんばる”人をやさしく表す言葉
としてちょうど良いからです。
① SNSでは「控えめな自己表現」に使われる
Twitterや日記系SNSでよく見られるのがこれ↓
-
おずおずと自己紹介します…
-
おずおずと描いた絵を置いておきます
-
おずおずと投稿してみますね
ここでの「おずおず」は、
単なる緊張ではなく、
✔ 自分を出すのが少し怖い
✔ でも思い切って投稿する
✔ 前向きに歩き出す感じ
という柔らかいニュアンス。
いきなり「はじめまして!」と元気に言うより、
“ちょっと控えめな第一歩”として使われることが多い表現です。
② 日常会話では「丁寧に距離をつめる」動作を描く
とくに人間関係の微妙な距離感を描く時に使われます。
・新人が、おずおずと上司にメモを差し出す
・子どもがおずおずと家族の輪に入ってくる
・彼女がおずおずと理由を説明し始める
どれも、
相手を気遣いながらの慎重な行動 が見て取れます。
このため、
文章や小説の描写でも使われやすい単語です。
③ “弱々しさ”より“かわいらしさ・奥ゆかしさ”として使われることも
若い世代のSNSでは、
-
“おずおずとしてて可愛い”
-
“おずおず感が最高”
-
“おずおず歩く猫が好き”
のように、
どこか愛嬌を感じさせる表現 として使われることも増えています。
昔より“ポジティブ寄り”のニュアンスで
受け取られるケースが増加しています。
④ 「おどおど」「もじもじ」との境界があいまいになる場面も
心理描写系の擬態語は境界がゆるく、
SNSでは “かわいらしい弱さ” としてまとめられがち。
とはいえ繰り返しになりますが、
意味としてははっきり違います👇
-
おずおず:前に進む
-
おどおど:後ろへ引く
-
もじもじ:照れて動けない
文章を書くときは、この違いが効いてきます。
現代の「おずおず」は、弱さではなく“慎ましい勇気”。
恐れながらも一歩を踏み出す姿を、そっと照らす言葉なのです。
まとめ
「おずおず」は、
単なる“弱さ”を表す言葉ではありません。
そこには——
-
不安がある
-
ためらいもある
-
それでも、少しだけ前へ進もうとする
という、
“静かな勇気” が込められています。
似た表現の「おどおど」と違い、
行動が止まらず、前に向かって進む力がある のが特徴。
現代ではSNSを中心に、
控えめな自己表現や、やさしい気持ちの描写として
「おずおず」が再び使われる機会が増えています。
「おずおず」は、
誰もが心のどこかに持っている“こわごわの一歩”を
そっと言葉にしてくれる日本語なのです。

