「それなりに頑張りました」
「それなりに美味しいお店です」
「それなりに楽しめました」
日常会話の中でよく耳にする「それなりに」という言葉。
便利な言葉ですが、どこか引っかかることはありませんか?
褒めているようにも聞こえる。
けれど、どこか物足りない。
言われた側は「結局どういう評価なんだろう?」と首をかしげることもあります。
今回は、この曖昧で不思議な言葉「それなりに」の意味や使い方、そして日本人らしい心理について考えてみたいと思います。
「それなりに」の基本的な意味
「それなりに」とは、
- 状況に応じた程度である
- 相応のレベルには達している
- 特別優れているわけではないが最低限は満たしている
という意味を持つ言葉です。
例えば、
「彼はそれなりに仕事ができる」
と言えば、
「優秀とまでは言わないが、任せられる程度にはできる」
という意味になります。
つまり、「ゼロではない」「悪くはない」という評価が含まれているのです。
「それなりに」は褒め言葉なのか?
ここが一番難しいところです。
実は、「それなりに」は褒め言葉にもなります。
例えば、
「初めてにしては、それなりによくできている」
これは明らかに肯定的な評価です。
期待値より良かった。
予想以上だった。
そんな気持ちが含まれています。
ところが、
「まあ、それなりだったね」
と言われるとどうでしょう。
急に微妙な空気になります。
褒めているようで褒めていない。
むしろ「期待したほどではなかった」と聞こえてしまいます。
なぜ「それなりに」はモヤモヤするのか
「それなりに」が厄介なのは、
評価の基準をぼかす言葉
だからです。
例えば、
- 良かった
- 悪かった
なら分かりやすい。
ところが、
「それなりに良かった」
になると、
「良かった」のか、
「そこそこだった」のか、
判断が曖昧になります。
日本人は、はっきり言わずに空気を壊さないことを大切にします。
そのため、
「すごく良いわけではないけど悪くもない」
という中間地点を表す言葉として、「それなりに」が重宝されてきたのでしょう。
自分に使う「それなりに」
私は、「それなりに」という言葉を自分に対して使う時は嫌いではありません。
例えば、
「それなりに頑張った」
「それなりにできた」
という言い方です。
これは自分を甘やかしているわけではありません。
完璧ではない。
でも、今の自分としては精一杯やった。
そんな自分への労いの言葉です。
若い頃は100点を目指していましたが、年齢を重ねると、
「それなりでもいいじゃないか」
と思える場面が増えてきます。
他人から言われると腹が立つ理由
ところが不思議なことに、
他人から
「それなりでしたね」
と言われると少し腹が立ちます(笑)。
なぜでしょう。
おそらく、
「たいしたことはないけれど」
というニュアンスを感じてしまうからです。
例えば、
一生懸命作った作品に対して、
「それなりに良いですね」
と言われたら、
「それだけかい!」
と思ってしまうかもしれません。
つまり、
自分が使う「それなりに」は励まし。
他人が使う「それなりに」は評価。
だから印象が大きく変わるのです。
「それなりに」が使われる心理
無難に済ませたい
「あの映画どうだった?」
「まあ、それなりに面白かったよ」
絶賛するほどではない。
かといって否定するほどでもない。
そんな時に便利です。
期待値を調整したい
「それなりに準備しました」
と言えば、
頑張ったことは伝えつつ、
完璧ではないことも伝えられます。
相手との距離感を保ちたい
「彼の意見もそれなりに分かる」
全面的な賛成ではない。
でも否定もしない。
日本人らしい絶妙な距離感です。
「それなりに」と似た言葉
| 言葉 | ニュアンス |
|---|---|
| まあまあ | 軽く評価する |
| 一応 | 最低限 |
| そこそこ | 平均以上 |
| 十分 | はっきり肯定 |
| 可もなく不可もなく | 中立評価 |
この中で「それなりに」は、
評価を曖昧にぼかす力
が最も強い言葉かもしれません。
昭和世代が感じる「それなりに」
私たち昭和世代は、
「頑張れ」
「もっと上を目指せ」
と言われて育った世代です。
だから、
「それなりに」
という言葉には、
少し妥協の響きを感じる人もいるでしょう。
しかし今は違います。
完璧を求めすぎると疲れてしまう時代です。
だからこそ、
「それなりに頑張った」
という言葉には、
自分を守る優しさも含まれている気がします。
まとめ
「それなりに」とは、
良くも悪くもない中間地点を表す、日本語らしい曖昧な表現です。
褒め言葉にもなり、
遠回しな否定にもなる。
自分に使えば励ましになり、
他人から言われると少し腹が立つこともある。
それだけに、この言葉には日本人特有の距離感や気遣いが詰まっています。
そして人生もまた、
完璧ではなくても、
それなりに頑張り、
それなりに悩み、
それなりに楽しんで生きていくものなのかもしれません。
そう考えると、
「それなりに」
という言葉も、なかなか悪くない気がします。

