「それなりに頑張りました」「それなりに美味しいお店です」「それなりに楽しめました」。
こうした言い回し、あなたもどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか?
一見すると控えめで丁寧な印象を受けるこの言葉。でもよく考えると――
それって褒めてるの? それとも、ちょっとけなしてる?
日本語には、“はっきり言わない”ことで成り立つ独特のコミュニケーション文化があります。
今回は、その代表格ともいえる「それなりに」という表現について、
使う側と受け取る側の本音や、その曖昧さの正体を探っていきましょう。
「それなりに」の基本的な意味
「それなりに」は、辞書的には以下のような意味があります。
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状況や条件に応じて、ある程度妥当な状態であること
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特別優れているわけではないが、最低限のレベルには達していること
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“可もなく不可もなく”のニュアンス
たとえば、
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「この店、それなりに美味しいね」
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「彼は仕事をそれなりにこなしているよ」
どちらも、決して悪くはないけれど、強く評価しているわけでもないという温度感を含んでいます。
褒め言葉?それとも遠回しな否定?
この言葉のやっかいな点は、褒め言葉としても使える反面、ちょっとした“下げ”の意味も含まれることです。
【ポジティブな使い方】
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「彼、プレゼンもそれなりに上手だったね」
→ 一応うまくやっていた、予想よりも良かったという含み。
【ネガティブな使い方】
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「彼、プレゼンそれなりだったね…」
→ 思ったほどではなかった、もっと期待してたという落胆。
つまり、「それなりに」は言い方や表情、文脈によって真逆の意味になることもあります。
「それなりに」が使われる場面と心理
1. 無難にまとめたいとき
強く言いたくないとき、あるいは相手の気分を害したくないときに使われます。
「あの映画、まぁそれなりに面白かったよ」
→ 面白かったとは言いたいけど、大絶賛するほどでもない。
2. 期待値を下げておきたいとき
自分の成果や計画について、控えめに伝える時にも使われます。
「今回の資料はそれなりに準備しました」
→ 完璧ではないけど、それなりに努力したことは伝えたい。
3. 相手との距離感を保ちたいとき
直接的な否定や批判を避ける表現としても用いられます。
「彼の意見も、まぁそれなりに分かるよ」
→ 全面的に同意しているわけではないが、否定は避けたい。
類似表現との比較
表現 | ニュアンス |
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まあまあ | フラットで軽い印象。「それなりに」に近いが、より日常的 |
一応 | 最低限の意味合い。「それなりに」よりさらに控えめ |
十分 | 明確な肯定。しっかり達成されているニュアンス |
それほどでも | やや否定寄り。期待以下の印象 |
英語にするとどうなる?
英語に直訳するのは難しいですが、以下のような言い回しが近い意味になります。
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“decent”(まあまあ、悪くない)
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“fairly good”(ある程度良い)
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“not bad”(悪くない)
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“adequate”(必要最低限の)
ただし、英語では曖昧にぼかす文化があまりないため、「それなりに」は日本語特有の繊細な表現と言えます。
まとめ:それなりに、奥が深い
「それなりに」は、便利で使い勝手の良い言葉ですが、伝える側と受け取る側の解釈がズレやすい表現でもあります。
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丁寧に伝えたいとき、あえてぼかしたいときには役立つ
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でも、本音を知りたい場面では、ややモヤモヤが残ることも
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曖昧だからこそ、使い方次第で空気を読んだり、すれ違いを生んだりする
言葉は道具。だからこそ、「それなりに」も使いどころを誤らないようにしたいですね。