「一目置く人がいる」──そんな言い方を聞いたことはありませんか?
この言葉、単なる尊敬とも違い、どこか“対等な意識”や“ライバル心”も含んでいます。
この記事では、「一目置く」という言葉の意味・語源・使い方について、わかりやすく解説します。
一目置くとはどういう意味?
「一目置く(いちもくおく)」とは、
他人の優れた能力やセンスを認めて、ひとつ引いた立場からその人に接することを意味します。
「すごいな」「敵わないな」と感じながらも、決して完全に距離を置くわけではなく、敬意を持って対等な場に立つ。
その絶妙なバランス感覚が「一目置く」という言葉に込められています。
たとえば職場で…
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「あの人は企画力が抜群で、みんな一目置いている」
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「彼は社内でいちばん若いのに、営業成績はトップ。まさに一目置かれる存在」
こんなふうに使われることが多いですね。
つまり、誰かの実力や存在感を認め、自然と周囲が敬意を払う状態なのです。
「一目置く」の語源と由来
実は「一目置く」という言葉のルーツは、**囲碁(いご)**にあります。
囲碁では、実力差がある対局者同士が対戦するとき、弱い側に**「置き石」**というハンデを与える文化がありました。
このハンデのことを「一目(いちもく)」といい、
「あなたのほうが強いから、こちらが一手(=石ひとつ)置かせていただきます」という意味になります。
つまりこの言葉には、
相手の力を認めて、自分が先に譲る(引く)
という謙虚な姿勢と敬意が表れているのです。
その精神が、後に人間関係にも転用され、「彼には一目置いている」=「彼の力を認めている」となったわけです。
「尊敬」と「一目置く」はどう違う?
「一目置く」と似た表現に「尊敬する」がありますが、実はニュアンスに大きな違いがあります。
以下に違いをまとめてみましょう。
観点 | 一目置く | 尊敬する |
---|---|---|
感情 | 敬意+ライバル心 | 憧れ・崇拝に近い |
距離感 | わりと近い相手(同僚や友人) | 距離がある相手(目上や著名人) |
関係性 | 対等、またはライバル関係 | 一方的にリスペクトする関係 |
主体 | 使う本人の判断 | 社会的・道徳的に認められる場合が多い |
「一目置く」は、自分と同じ舞台に立つ相手だからこそ成り立つ言葉です。
上から見下すのでも、下から仰ぎ見るのでもない、対等な立ち位置での敬意。
だからこそ、ビジネスやスポーツの世界など、競い合いの中にある関係性でよく使われます。
「一目置く」の使い方と例文
ビジネスでの使用例
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「彼のロジカルな資料作成は社内でも一目置かれている」
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「プレゼンのスキルでは、彼女に一目置かざるを得ない」
どちらも、実力を認めたうえで敬意を払っている言い回しです。
なお、目上の人に対して使うこともできますが、ややくだけた表現なので、目上には「尊敬しております」などを使うのが丁寧です。
日常会話での使用例
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「あの子は勉強もスポーツもできて、一目置いちゃうよね」
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「彼女のセンスの良さには一目置いてる」
このように、友人同士や同世代の間で使うと自然です。
ただし、皮肉っぽくならないよう注意が必要です。
注意点
「一目置く」は、あくまでも相手の実力を“認めている”状態。
そのため、誰かを下に見る感情が含まれている場合に使うと、ちぐはぐな印象になります。
×「あの新人、一目置かれてるらしいけど、私にはそう見えない」
→ この場合は「買いかぶられている」などの方が適切です。
「一目置く人」とはどんな存在?
あなたが「一目置いている人」を思い浮かべてみてください。
きっとその人は、
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あなたと似たフィールドで活躍していて
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成績や能力において一歩先を行っていて
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負けたくないけど、自然と認めざるを得ない
そんな存在ではないでしょうか。
この“張り合い”と“リスペクト”の両立こそ、「一目置く」関係の醍醐味です。
ときに競い合い、ときに学び合う──
そんな健全なライバル関係において、非常にしっくりくる表現なのです。
類語との違いにも注目
「頭が上がらない」
→ 相手に借りがあったり、恩があったりして、対等に接しづらいときに使います。
一目置くはあくまで対等な関係なので、意味合いが異なります。
「敬意を払う」
→ 丁寧でフォーマルな言い方。目上の相手に対して使いやすいですが、「一目置く」よりやや距離感がある印象です。
「一目置かれる存在」
→ 受け身の形。第三者評価で使う表現。「一目置く」とは主語が変わります。
まとめ
「一目置く」という言葉は、
相手の実力を素直に認めて敬意を払う、けれど完全には引かない──そんな繊細な心の動きを表す表現です。
尊敬よりも近く、対等な関係の中でしか生まれないこの言葉。
だからこそ、仕事の中でも、人間関係の中でも、一目置く存在というのは特別な意味を持ちます。
単なるお世辞や表面的な称賛ではなく、
心から「敵わない」と思える人にこそ、自然と使いたくなる言葉なのかもしれません。