ニュース番組や会社の研修などでよく耳にする「コンプライアンス」という言葉。
最近では「コンプライアンス違反で謝罪」「コンプラ意識が欠けている」といった表現もよく見かけますよね。
でも、いざ「コンプライアンスって何?」と聞かれると、
「…法律を守ること?」「モラル?」と、なんとなくしか説明できないという人も多いのではないでしょうか。
実は、「コンプライアンス」は単に「法律を守ること」だけを意味する言葉ではありません。
**企業や個人が信頼を得て活動するための“基本ルール”**という意味合いも含まれています。
この記事では、
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「コンプライアンス」の意味や語源
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ビジネスで使われる背景と広がり
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実際に起こったコンプライアンス違反の例
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よくある誤解や使い方の注意点
などを、わかりやすく解説していきます。
「コンプライアンス」の本来の意味とは?
「コンプライアンス(compliance)」という言葉は、英語の動詞 「comply(従う)」 を語源としています。
直訳すると、「命令・規則・要求などに従うこと」「許可された基準に合致すること」といった意味になります。
英語圏での“compliance”の使い方
英語では以下のような文脈で使われます:
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in compliance with the law(法律に従って)
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ensure compliance with safety standards(安全基準の順守を確保する)
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compliance report(法令順守報告書)
つまり、英語圏では主に規則や契約、法律に従うことを意味しており、
対象は企業・個人を問わず、「ルールを守る」という行為全般を指します。
日本での「コンプライアンス」は“法令+倫理”
日本では「コンプライアンス=法令順守」と訳されることが多いですが、
それにとどまらず、次のような要素も含まれるようになっています。
【1】法律や行政ルールの順守
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労働基準法、個人情報保護法、下請法などを守ること
【2】社内ルール・社内規定の順守
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就業規則、コンプライアンス規程、職場マナー
【3】社会的な倫理・モラルの配慮
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差別・ハラスメントの禁止、フェアな取引、地域との共存
【4】顧客・取引先・従業員などへの誠実な対応
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不当表示をしない、納期を守る、社員を大切にする
このように、法律だけではなく、“社会的に良識ある行動”も含めて守ることが、日本での「コンプライアンス」の実態です。
なぜ「法令順守」だけでは足りないのか?
現代社会では、企業や組織に対して、法的な正しさだけでなく、
「社会から信頼される行動をしているかどうか」という視点がより重要視されるようになっています。
たとえば…
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法律には違反していないけど、労働環境がブラック
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明文化されたルールはないけど、パワハラが横行している
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税法には触れないが、限りなくグレーな節税スキームを実施している
これらはすべて、「法令違反ではないが、コンプライアンス上問題がある」とみなされる行動です。
つまり、「ルールを守る」だけではなく、「どう見られているか」までを意識することが、現代のコンプライアンスなのです。
ビジネスで使われる「コンプライアンス」の範囲
企業が「コンプライアンスを重視します」と言うとき、
その意味は単に「法律を守ります」ということだけではありません。
現代のビジネスにおけるコンプライアンスは、企業活動全体に関わる広い概念として捉えられています。
コンプライアンスが求められる具体的な領域
以下のような分野で、企業にはコンプライアンスの順守が求められます。
【1】法令の順守
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労働基準法、独占禁止法、個人情報保護法、景品表示法 など
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契約や下請けのルール、各業界ごとの法令なども含まれます。
【2】社内ルールの遵守
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就業規則、内部通報制度、倫理規定など
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自社が定めたルールに従うことも「コンプライアンス」の一部です。
【3】ハラスメントや差別の防止
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セクハラ、パワハラ、マタハラなど
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人権意識や多様性への配慮もコンプライアンスの一環と見なされます。
【4】環境や地域社会への配慮
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リサイクル、CO2削減、地域貢献など
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持続可能性(サステナビリティ)も、現代では重要な評価ポイントです。
【5】企業の誠実性・透明性の確保
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偽装・隠ぺい・利益相反の回避
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誠実な情報公開、正確な会計処理、説明責任(アカウンタビリティ)
社員一人ひとりが対象になる
コンプライアンスは「経営層だけの問題」と思われがちですが、
実は現場の社員一人ひとりの行動にも深く関わります。
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不正な経費精算
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取引先との癒着
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うっかりした個人情報の持ち出し
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内部の情報をSNSで拡散する行為
これらはすべて、**小さく見えても「コンプライアンス違反」**と判断される可能性があります。
信頼の時代における「コンプラ意識」の重要性
今は、SNSやニュースで企業の問題がすぐに拡散される時代。
たった1人の不正行為や不用意な発言が、企業全体の信頼を損なう結果につながることも。
そのため、企業は社員に対しても「コンプライアンス教育」を行い、
「自分の行動が会社を代表している」という意識を持たせる努力をしています。
実際にあった“コンプライアンス違反”の事例
コンプライアンスという言葉は少しかたく聞こえるかもしれませんが、
その重要性は、実際の違反事例を見るとぐっと身近に感じられます。
ここでは、世間を騒がせたコンプライアンス違反の一例を紹介しながら、問題の本質を探っていきます。
食品偽装問題(ホテル・百貨店など)
過去には、高級ホテルや百貨店のレストランで、
「メニューでは“車海老”と記載していたが、実際には“ブラックタイガー”を使っていた」などの表示偽装が問題になりました。
このような事例は、法律的には軽微な違反だったとしても、
「消費者をだました」という社会的な信用失墜につながり、企業全体への不信を招く結果となりました。
労働環境問題(長時間労働・サービス残業)
労働基準法違反によるブラック企業認定や、長時間労働による過労死事件なども、
企業のコンプライアンス意識が問われたケースとしてよく知られています。
働く環境を軽視した結果、社会的に大きな批判を受け、企業ブランドが深刻なダメージを受けることもあります。
個人情報の流出(顧客情報・従業員データなど)
一部の企業では、社員がUSBに顧客データを保存して持ち帰り、紛失してしまったり、
外部業者の管理ミスで大量の個人情報が流出したりといった情報管理の不備もコンプライアンス違反とみなされます。
たとえ意図的な悪意がなかったとしても、管理体制そのものの甘さが問われるのです。
社員による不適切なSNS投稿
個人のSNSアカウントから、勤務先の内情を暴露したり、
不謹慎な発言をして炎上したりするケースも、企業のイメージに大きく影響します。
企業側にとっては、「社員教育が不十分だった」と見なされ、“企業全体のコンプライアンス問題”として批判されることも少なくありません。
違反による影響は「企業の信用喪失」に直結する
これらの事例に共通しているのは、
一度コンプライアンス違反を起こすと、法律以上に「社会の信用」を失うという点です。
罰金や制裁だけでなく、取引先との関係悪化、採用難、株価の下落など、実際の経済的損失にも直結することがあるのです。
「コンプライアンス」と「法律遵守」は違うの?
「コンプライアンスは法律を守ること」とよく言われますが、
実は**「法律遵守」と「コンプライアンス」は、完全にはイコールではありません。**
この2つの違いをしっかり理解しておくと、コンプライアンスの本質がよりクリアになります。
法律遵守(=法令順守)は最低限のライン
「法律遵守」とは、読んで字のごとく、法律や条例などの明文化されたルールに従うことです。
たとえば:
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契約を結んだら履行する
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労働基準法に基づいて労働時間を守る
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税法に従って適切に納税する
といった行為はすべて、法律遵守にあたります。
これらは社会の中で「やって当然」とされる最低限の行動であり、守らなければ違法となり、処罰の対象になります。
コンプライアンスは“社会的信頼を守る行動”も含む
一方で「コンプライアンス」は、法律を守ることに加え、社会的規範や企業倫理を含めた広い概念です。
たとえば:
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法律に違反していないが、倫理的に問題のある言動
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社会の価値観からズレた行動(たとえば差別的な発言や不誠実な対応)
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従業員を軽視する経営スタイル
これらは法的にはグレーだったり問題ない場合もありますが、社会的には「アウト」とされることが多いのです。
守るべき“ルール”は、社会ごと・時代ごとに変わる
法律は基本的に一定のルールですが、「社会が求めるコンプライアンス」は時代とともに変化します。
たとえば:
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昔は許された表現や働き方が、今はNGになる
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SNSでの拡散が前提の今、「見られていること」を意識する必要がある
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多様性・人権への配慮が、企業イメージを大きく左右する
つまり、「法に触れていないから大丈夫」ではなく、「社会がどう見るか」を常に意識して行動することが、現代のコンプライアンスなのです。
まとめ:企業も個人も守る“信頼のルール”
「コンプライアンス」は、単なる“法律を守ること”ではなく、
社会や関係者との信頼関係を守るための行動や姿勢を意味します。
現代においては、企業だけでなく、社員一人ひとり、時には個人事業主やフリーランスにとっても、
「社会からどう見られるか」「信頼を得られるか」が問われる時代です。
企業におけるコンプライアンスには、次のような要素が含まれます:
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法律や業界ルールの順守(法令遵守)
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社内規定や業務マニュアルの遵守
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ハラスメントや差別の防止
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環境・社会への配慮、説明責任
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情報管理・SNSリスクへの対応
これらはすべて、「信頼できる組織・人」であるために欠かせない行動基準です。
また、コンプライアンスは「会社のもの」ではなく、私たち一人ひとりの意識と行動に根ざしたものでもあります。
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「ちょっとくらいならいいだろう」
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「誰も見てないし大丈夫」
そんな気の緩みが、大きなトラブルや信頼の失墜につながることもあります。
これからの時代、「コンプライアンスを守る」とは、
“信頼される人・組織であり続ける”という約束を果たすこと。
ルールを守ることが目的ではなく、
「誰かに安心してもらえる存在であるため」に、何ができるかを考える――
それが、本当のコンプライアンスです。