「返す刀で次の仕事も片づけた」「返す刀で質問を投げかける」──このように日常会話やビジネスの場で耳にすることのある「返す刀」という慣用句。けれども、その正しい意味を理解して使っている人は意外と少ないかもしれません。
多くの人が「反撃する」「仕返しをする」といった意味で使ってしまいがちですが、実はそれは誤用。本来の「返す刀」とは、ひとつのことを行った勢いのまま、続けて別のことをするという意味なのです。
この記事では、「返す刀」の正しい意味や語源、使い方の例文、そして誤用されやすいポイントをわかりやすく解説します。慣用句の本来のニュアンスを知れば、日常会話や文章に深みを加えられるはずです。
「返す刀」の意味
「返す刀(かえすかたな)」とは、ひとつのことを行ったついでに、その勢いで続けて別のことをすることを意味する慣用句です。
本来の意味
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もともとは「返す刀で討つ」という表現から生まれました。
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一度刀を振り下ろしたあと、その刀を持ち直すことなく返しの動きで次の敵を斬る、という戦い方を指します。
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ここから転じて、「行動を一度で終わらせず、その流れを利用して別のことをする」という意味に広がりました。
現代的なニュアンス
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単なる「ついでに」よりも、「勢いに乗じて続けざまに行う」というダイナミックさを含んでいます。
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効率よく次々と物事を進めるイメージを伴い、ビジネスシーンや文章で使うとリズム感のある表現になります。
使用イメージ
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「行動の余勢を駆って、次のこともまとめてやってしまう」
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「勢いを切らさず、連続して行動する」
語源と由来
「返す刀」という言葉は、戦国時代や剣術の世界から生まれた表現です。
武士の戦い方から
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本来は「返す刀で討つ」という言い回しに由来します。
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一度刀を振り下ろした後、構えを直すことなく、その返りの動きで別の敵を斬る技法を指しました。
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攻撃の連続性、無駄のない動作、効率性が強調されていました。
言葉としての発展
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「返す刀で討つ」 → 「返す刀」と省略して使われるように。
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そこから比喩的に「ひとつの行動に続けて別の行動をする」という意味に広がりました。
江戸以降の文章表現に登場
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文学や歴史書の中でも「返す刀」という表現が使われ、比喩として定着。
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近代以降は日常会話やビジネスの中でも使われるようになり、現在では慣用句のひとつとして広辞苑などの辞書にも載っています。
ポイント
「返す刀」は、武士の実戦的な技から生まれた言葉で、連続性や効率性を強調する日本的な表現です。ここに「ついでに」「勢いで」という現代的なニュアンスが加わり、慣用句として広く使われるようになりました。
正しい使い方の例文
「返す刀」は、ひとつの行動を終えた勢いで、続けて別の行動をするというニュアンスを込めて使います。日常生活やビジネスの場での例文を見てみましょう。
ビジネスシーン
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「プレゼンを終えた返す刀で、新規プロジェクトの提案も行った」
👉 勢いを切らさずに、関連する別の仕事を続けざまに行ったことを表現。 -
「会議で問題点を指摘した返す刀で、改善案まで示した」
👉 指摘にとどまらず、その流れで建設的な行動につなげた。
日常生活
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「買い物に出た返す刀で、銀行に寄ってきた」
👉 外出のついでに、別の用事を済ませたことを表現。 -
「試験勉強を終えた返す刀で、部屋の片付けをした」
👉 勢いのまま、続けて別の行動に移ったことを表す。
文学的・やや硬い場面
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「彼は一人を討ち取ると、返す刀で次の敵を斬った」
👉 本来の戦いにおける使い方を再現した例。
ポイント
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「返す刀」は “行動の勢いを利用して連続的に行う” ことを表す。
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「ついでに」と似ていますが、「勢いに乗って」「余勢を駆って」というニュアンスが強い。
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主に比喩的な表現として文章で使われることが多い。
誤った使い方に注意
「返す刀」は本来「ひとつの行動の勢いを利用して、続けざまに別のことをする」という意味ですが、現代ではしばしば誤って使われることがあります。
よくある誤用:反撃や仕返しの意味
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「返す刀でやり返す」=「反撃する」「仕返しする」という意味で使う人がいます。
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例:「彼に怒られたので、返す刀で言い返した」
👉 この場合の使い方は本来の意味からずれており、誤用です。
なぜ誤用されやすいのか?
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「返す」という言葉から「逆襲」「反撃」を連想しやすい。
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刀という言葉が持つ攻撃的なイメージが、誤解を助長している。
正しい意味との違い
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本来:「勢いに乗じて次の行動をする」
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誤用:「仕返しや反撃をする」
ポイント
「返す刀」は「反撃」ではなく「連続して次の行動をする」という意味。誤用すると相手に誤解を与えかねないため、「ついでに」「勢いで」と言い換えて確認すると正しく使えるでしょう。
類語や言い換え表現
「返す刀」は「ひとつの行動をした勢いで、続けて別の行動をする」という意味を持ちます。場面によっては、次のような言葉に置き換えることができます。
「 ついでに」
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意味:何かをする機会を利用して、同時に別のことを行う。
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例文:「駅に行くついでに、返す刀で本屋にも寄った」
👉 一番日常的でわかりやすい言い換え。
「 勢いで」
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意味:一度動き始めた力をそのまま次の行動に使う。
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例文:「返す刀で、勢いに任せて別の仕事も片づけた」
👉 「返す刀」と同じ“余勢を駆って”というニュアンス。
「 一挙に」
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意味:一度の行動でまとめて片づけること。
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例文:「返す刀で関連する案件を一挙に処理した」
👉 行動をまとめて効率的に進めるニュアンスが強い。
「 先手を打つ」
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意味:相手の動きに先んじて行動する。
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例文:「返す刀で次の提案を出し、先手を打った」
👉 厳密には同義ではないが、「素早く続ける」という部分で共通点がある。
「 余勢を駆って」
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意味:勢いに乗じてさらに行動を起こすこと。
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例文:「返す刀で余勢を駆って新事業を展開した」
👉 書き言葉的でやや硬いが、もっとも近い表現のひとつ。
ポイント
「返す刀」は「ついでに」「勢いで」といった表現で言い換え可能ですが、そこに**“戦の余勢をそのまま次の動きに生かす”**という歴史的な背景があるため、文章で使うと独特のリズムと重みを持たせられるのが特徴です。
まとめ
「返す刀」とは、本来「刀を振り下ろした勢いのまま、返して次の敵を討つ」ことから生まれた言葉で、転じてひとつの行動の流れで続けざまに別のことをするという意味を持つ慣用句です。
現代では「返す刀で提案する」「返す刀で片づける」といった形で、ビジネスや日常生活に応用され、効率よく物事を進める表現として使われます。しかし「反撃」「仕返し」という意味で誤用されることも多いため、注意が必要です。
「ついでに」「勢いで」「余勢を駆って」などの類語に言い換えることもできますが、「返す刀」という表現ならではの歴史的な背景と力強さがあります。正しく使えば、会話や文章にリズムと深みを与えられる便利な慣用句だといえるでしょう。