「老舗の○○御用達」「皇室御用達の高級品」――こういった表現、テレビや雑誌などで見かけたことはありませんか?「御用達(ごようたつ)」と聞くと、どこか高級感があって格式高いイメージを持つ方も多いと思います。
しかし、そもそも「御用達」って何を意味するのでしょうか?実はこの言葉、歴史的な背景を持ち、現代では本来の意味とは少し異なる使われ方をしていることもあります。さらに意外と知られていないのが、「御用達」と書いて「ごようたし」と読むケースもあるということ。
この記事では、「御用達」の意味や由来、正しい読み方、現代での使い方まで、わかりやすく解説していきます。
「御用達」とは?
定義と基本的な意味
「御用達(ごようたつ)」とは、公的機関や特定の組織が、公式に注文をして物資やサービスを調達すること、またはその取引先を指す言葉です。たとえば「皇室御用達」と言えば、「皇室に納めることを正式に認められている店」という意味になります。
もともとは、政府や大名、あるいは皇室などの“お上”から直接注文を受ける店や商人を指す称号でした。単なる取引先というよりは、「信頼できる品質やサービスが認められている」ことの証として、格式が高いイメージがあります。
例文
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当店は創業以来、○○家御用達の和菓子を作り続けています。
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皇室御用達のタオルは、品質が極めて高いことで有名です。
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この老舗の酒蔵は、かつて藩主の御用達だった。
御用達は現代では「高品質」や「信頼のお墨付き」といったニュアンスで使われることが多いですが、もともとはもっと“公式な役割”を持つ称号でした。
「御用達」の歴史と背景
江戸時代の御用達制度
「御用達」という言葉が定着したのは、江戸時代の日本です。当時の幕府や各藩では、多くの物資やサービスが必要とされており、これらを安定して調達するために、特定の商人や職人に“専属契約”のような形で役目を任せていました。これがいわゆる「御用達商人」です。
御用達になるためには、厳しい条件をクリアする必要があり、品質の高さや信用が重要視されました。御用達に選ばれることは商人にとって大きな誇りであり、取引先が“お上”ということもあって、地域社会での評判も大きく高まったと言われています。
皇室・宮内庁御用達の話
特に有名なのが、皇室御用達です。現在も「宮内庁御用達」という表現を目にすることがありますが、これは日本の皇室に商品やサービスを納入することが正式に認められた企業や店を指します。
ただし、現在の宮内庁御用達は公式な認定制度が存在しているわけではなく、取引実績があることを示すものです。戦前には「宮内省御用達」として厳密な認定制度がありましたが、戦後に制度としては廃止されています。
このような背景から、今では「御用達」という言葉は、かつての歴史や伝統を象徴するブランド的な意味合いで使われることが多くなりました。
御用達の歴史を知ると、この言葉が単なる“高級品のイメージ”だけでなく、信頼と格式を重んじた背景があることが見えてきます。
正しい読み方:「ごようたし」と読む理由
「御用達」という漢字を見ると、多くの人が自然と「ごようたつ」と読んでしまいます。実際、現代の日本語ではそれが一般的な読み方として定着していますが、本来の正しい読み方は「ごようたし」であることをご存じでしょうか?
読み方の歴史と背景
「御用達」は、もともと江戸時代に使われていた言葉で、漢字の「達(たつ)」は“達する(とどける)”ではなく、“達し(たし)”=“命令・指令”という意味合いで用いられていました。つまり「御用(お上の用事)に対する指令・命令」というニュアンスを持っていたのです。
この背景から、当時は「ごようたし」と読むのが正式で、役所の公式文書や古い書物でもその読み方が使われていました。
なぜ「ごようたつ」と読むようになった?
現代では「ごようたし」と読む人は少なく、「ごようたつ」が一般的になっています。これは時代とともに読み方が簡略化・音変化していったためと考えられています。特に「達」という漢字が「到達」などの読み方と混同されることで、自然と「たつ」と読まれるようになったとされています。
また、現代の辞書などでは両方の読み方が記載されていることもありますが、古典的・正式な読みは「ごようたし」であることを覚えておくと、ちょっとした雑学として役立つかもしれません。
読み間違いが多い理由
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「達」が「たつ」と読めるため、現代人には馴染みがある読み方になった。
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「たし」は古風な響きがあり、現代では使われる機会がほとんどない。
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メディアや広告でも「ごようたつ」として紹介されることが多い。
そのため、厳密には「ごようたし」が正しいと知っていても、現代の会話や文章では「ごようたつ」と読むのが無難とされる場面が多いです。
このように、「御用達」は読み方ひとつとっても、歴史の奥深さが感じられる言葉なんですね。
現代の「御用達」の使い方
ビジネスシーンでの例
現代において「御用達」は、もはや幕府や皇室に限定されるものではなくなり、より広い意味で使われるようになっています。特にビジネスの場面では、「○○御用達」と称することで、「その分野で高い信頼と実績を持っている」というブランドイメージを強調することが一般的です。
たとえば:
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「プロ御用達」 → 専門家が愛用している(例:プロ御用達の包丁)
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「スポーツ選手御用達」 → アスリートがよく使っている(例:選手御用達のスポーツドリンク)
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「芸能人御用達」 → 芸能人が愛用している(例:芸能人御用達の美容サロン)
これらは、公式な認定を受けているわけではなく、「多く使われている」という実績をアピールするための表現であることがほとんどです。
日常会話での例
ビジネスシーン以外でも、「御用達」は日常的な会話の中で使われることがあります。この場合も、「よく利用している」「信頼している」というニュアンスが込められています。
たとえば:
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このラーメン屋さん、もう学生時代からの御用達なんだよね。
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あのスーパーは我が家の御用達で、毎週通ってるよ。
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出張のときは、このホテルが御用達だよ。
このように、格式高い表現から、カジュアルな“おなじみの”という意味合いまで幅広く使われるようになっています。
現代の「御用達」は、かつてのような“公式な指定”ではなく、信頼や愛用の象徴として柔軟に使われる言葉に変わってきたと言えます。
「御用達」と似た表現
「御用達」に近い意味合いを持つ表現は、いくつか存在します。ここでは、特に混同しやすい・代わりに使われやすい表現を紹介します。
1. 愛用
「愛用」は、個人が特定の商品やサービスを好んで使い続けることを指します。
御用達が「お得意様」的なニュアンスを含むのに対し、「愛用」はもっと個人的で、使っている本人の主観が強い表現です。
例:
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このペンはずっと愛用している。
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愛用のカメラで旅行の写真を撮った。
2. 常連
「常連」は、特定の店や場所に頻繁に通っている人を意味します。御用達と同じく“なじみ”というニュアンスがありますが、商品の信頼性よりも「頻繁な利用」が強調される表現です。
例:
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あのカフェの常連なんです。
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店長さんも常連客には顔なじみだ。
3. 指定業者
「指定業者」は、特に官公庁や企業が公式に契約している業者のことを指します。御用達が歴史的に持っていた「公式な取引先」という意味合いと近いですが、現代ではより事務的・契約的な表現になります。
例:
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市の指定業者として清掃を担当しています。
4. ブランド品・高級品
御用達は高級なイメージを持つことが多いため、「ブランド品」や「高級品」などと結び付けられることもあります。ただし、これらは単に価格やブランド力を表すもので、御用達の「信頼性」「長年の実績」とは少し性質が異なります。
このように、「御用達」は似た表現と入れ替えて使える部分もありますが、歴史的な重みや公式性を意識するなら、きちんと区別して使うのが理想的です。
まとめ
「御用達」という言葉は、現在では「高級品」や「信頼できるもの」といったイメージで広く使われていますが、もともとは幕府や皇室などが公式に認めた取引先や商品を意味する格式高い言葉でした。江戸時代の御用達商人制度や、戦前の宮内省御用達など、歴史の中で特別な意味を持ってきたことがわかります。
また、本来の読み方は「ごようたし」が正しく、現在の「ごようたつ」という読みは時代とともに浸透してきたもの。意外と知られていない豆知識として覚えておくと役立ちます。
現代では、ビジネスや日常会話でも「プロ御用達」「我が家の御用達」など、親しみを込めた使い方も一般的になりました。言葉の背景を知ることで、より深みを持って使いこなせるようになりますね。