「彼の心情をおもんばかると、軽々しく言葉にできない。」
ニュースや小説、または弔辞などで耳にすることのある「おもんばかる」という言葉。日常会話ではあまり使われませんが、フォーマルな場面ではしばしば登場します。響きには独特の品格があり、知的で上品な印象を与える日本語表現のひとつです。
ただし、「おもんばかる」の意味をなんとなく「大切にする」や「尊重する」と理解している人も少なくありません。実は本来の意味は**「相手の立場や気持ち、状況を推し量って配慮すること」**であり、ニュアンスを正しく理解して使うことが大切です。
この記事では、「おもんばかる」の意味や語源、使い方、誤解されやすいポイント、そして類語との違いまで詳しく解説していきます。
「おもんばかる」の意味
基本的な意味
「おもんばかる」とは、相手の立場や気持ち、状況を推し量って配慮することを表す言葉です。
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「思う」+「量る(はかる)」が組み合わさり、文字通り「思いを量る」=「心や状況を推測して考慮する」という意味になります。
ニュアンスの特徴
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思いやりの心:単に推測するのではなく、相手を思いやる気持ちを含む。
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慎重な判断:軽率に行動するのではなく、状況を踏まえて判断する姿勢。
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フォーマルな響き:日常会話よりも、文章・スピーチ・弔辞などで使われることが多い。
使用シーン
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相手に対して気遣いを示すとき。
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公的な文章や挨拶の中で、格調高い表現として。
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亡くなった人や遺族への弔意を表すときに特によく使われる。
例文
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「部下の努力をおもんばかり、会議で評価を伝えた」
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「被災者の不安な気持ちをおもんばかって対応する」
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「遺族の悲しみをおもんばかると、かける言葉が見つからない」
語源と由来
成り立ち
「おもんばかる」は、もともと 「思い量る(おもいはかる)」 という表現から生まれた言葉です。
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「思う」:心に思いをめぐらすこと。
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「量る」:重さや程度を計るだけでなく、状況や気持ちを推測する意味を持つ。
この二つが結びついて、「相手の立場や心情を推し量る」という意味になりました。
古典から現代へ
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平安時代の文献や和歌にも「思ひはかる」に近い表現が登場します。
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その後、「おもんばかる」と音が変化し、江戸時代以降は文章語として定着。
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現代でも日常会話よりは文章・スピーチ・弔辞などフォーマルな場面で多く使われています。
響きの特徴
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「おもんばかる」という音自体に、やや古風で格調高い印象があります。
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同じ意味を持つ「慮る(おもんぱかる)」という表記もあり、より文語的・格式ばった印象を与えます。
使い方の例文
「おもんばかる」は日常会話よりも、文章やフォーマルな場でよく用いられます。状況や相手の立場を推し量り、配慮するニュアンスを込めたいときに使うと効果的です。
ビジネスシーン
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「社員一人ひとりの努力をおもんばかり、適切な評価を行う」
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「取引先の事情をおもんばかって、納期を柔軟に調整した」
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「顧客の立場をおもんばかると、迅速な対応が必要だと感じる」
弔辞・フォーマルな挨拶
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「ご遺族の悲しみをおもんばかると、かける言葉が見つかりません」
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「被災された方々の不安をおもんばかり、支援活動を続けています」
日常会話(やや硬め)
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「彼女の気持ちをおもんばかって発言した方がいいよ」
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「友人の立場をおもんばかると、軽々しく意見は言えない」
ポイント
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「おもんばかる」は相手や状況に対しての配慮・思いやりを強調できる。
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日常会話で使うと少し硬い印象になるが、丁寧に言いたいときには適している。
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ビジネス文書・スピーチ・弔辞などで特に効果的に使える。
誤解されやすい点
「おもんばかる」は響きが古風でフォーマルなため、似た表現と混同されることが多い言葉です。特に「重んじる」との違いに注意が必要です。
「おもんばかる」と「重んじる」の違い
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おもんばかる
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意味:相手の気持ちや状況を推し量って配慮する。
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ニュアンス:思いやり・気遣い・状況判断に重点。
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例文:「彼女の立場をおもんばかって、言葉を選んだ」
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重んじる
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意味:価値や重要性を尊重する、大切に扱う。
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ニュアンス:敬意・尊重・重要視に重点。
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例文:「会社は社員の自主性を重んじている」
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👉 「おもんばかる」は相手を思いやる姿勢、「重んじる」は価値を尊重する姿勢に近い違いがあります。
そのほかの混同しやすい表現
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思いやる:より口語的で、日常会話でも自然に使える。
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推し量る:状況を見て判断する意味が強く、配慮より推測に近い。
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慮る(おもんぱかる):ほぼ同義語だが、さらに文語的で硬い。
ポイント
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「おもんばかる」は「相手や状況に配慮する」ことを強調する言葉。
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「重んじる」とは意味が異なり、誤用するとニュアンスが変わってしまう。
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文脈に応じて正しく使い分けることが大切です。
類語・言い換え表現
「思いやる」
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意味:相手の心情に寄り添って気遣うこと。
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違い:「おもんばかる」より日常的で柔らかい表現。
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例文:「友人の気持ちを思いやる言葉をかける」
「推し量る」(おしはかる)
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意味:相手の気持ちや状況を想像して判断すること。
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違い:「おもんばかる」よりも客観的で、やや推測寄りのニュアンス。
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例文:「彼の沈黙の理由を推し量る」
「慮る」(おもんぱかる)
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意味:「おもんばかる」とほぼ同義語。
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違い:漢字で書くとさらに文語的・格式ばった響きになる。
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例文:「相手の都合を慮って計画を調整する」
「気遣う」
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意味:相手に迷惑や負担がかからないように配慮すること。
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違い:「おもんばかる」より口語的で幅広い場面に使える。
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例文:「母は私の体調を気遣ってくれる」
「配慮する」
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意味:他人や状況を考慮し、行動を慎重に整えること。
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違い:ビジネス・公的文書でよく使われる。
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例文:「顧客の立場に配慮して対応する」
ポイント
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「おもんばかる」はこれらの類語の中でももっとも古風で格式の高い響きを持つ。
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日常会話なら「思いやる」「気遣う」、ビジネスなら「配慮する」、フォーマルな文章なら「おもんばかる」や「慮る」を使うと効果的です。
まとめ
「おもんばかる」とは、相手の気持ちや立場、状況を推し量って配慮することを意味する日本語の慣用句です。もともとは「思い量る」に由来し、古典文学にも見られる歴史ある表現で、現代でもフォーマルな文脈でよく用いられます。
日常会話ではやや堅苦しく聞こえることもありますが、弔辞やビジネス文書、スピーチなど、改まった場で使うと品格を添えることができます。また、「重んじる」や「思いやる」と混同されやすいですが、「おもんばかる」は特に配慮や推測のニュアンスが強いのが特徴です。
言葉の響きひとつで、話し手の思いやりや品位は大きく変わります。「おもんばかる」を正しく理解し、適切な場面で使えば、表現の幅がぐっと広がり、相手への敬意をより深く伝えることができるでしょう。

