「あわよくば」はちゃっかり?それとも慎ましい願い?
「あわよくば付き合えるかも」
「あわよくば出世できたらうれしいな」
こうした言い回しに、どことなく“ずるさ”や“欲張り”な印象を受ける方もいるかもしれません。
なんとなく「自分の都合よく事が運べばいいな」という、
ちゃっかりした気持ちや、下心があるようなニュアンスに聞こえることも多いこの言葉。
SNSや日常会話では「うまくいったらラッキー」くらいの軽い使われ方をすることも増えています。
しかし実はこの「あわよくば」、
もともとはとても控えめで、慎ましい希望を表す言葉として使われていたのをご存じでしょうか?
日本語には「欲しい」とストレートに言わず、
遠回しに願望や期待を伝える表現が多くありますが、
「あわよくば」もその一つ。
今回はこの言葉の本来の意味と成り立ち、
なぜ“ずるい”という印象がついてしまったのか、
そして上手な使い方について詳しく解説していきます。
「あわよくば」の本来の意味とは?
まずは辞書的な意味を確認してみましょう。
『広辞苑』による定義
都合のよい機会があれば、それに乗じて
あるいは
うまくいけば、何かを成し遂げたいと思う気持ち
つまり、「あわよくば」とは――
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明確にチャンスがあるわけではないが
-
状況が整えば、やってみたい・かなえばうれしい
-
でも、無理に主張するわけではない
という、可能性にかけた控えめな希望や目論見を表す表現です。
「欲しい」「狙っている」と強く主張するのではなく、
「もし運がよければ…」という淡い期待にとどめておく。
このあたりに、日本語特有の奥ゆかしさや慎重さがにじんでいます。
なぜ「ずるい・ちゃっかり」という印象を持たれやすいのか?
それでは、なぜ「あわよくば」が「ちゃっかりしてる」「ずる賢い」という印象で使われることが増えたのでしょうか?
その背景には、現代的な使い方の変化と、言葉の“裏の意味”を読み取る文化が関係しています。
本音と建前を読む日本語の風土
「あわよくば」と言われたとき、
相手が本当に控えめに言っているのか、
それとも“狙ってるけど控えめぶってる”のか――
そんなふうに裏を読みたくなるのが、日本語の難しさでもあります。
-
「あわよくば昇進も狙ってます」
→ 「本当はガチで狙ってるけど、やんわり言ってるな…」 -
「あわよくば付き合えたら…(笑)」
→ 「実は本気で好意があるのでは?」と勘繰られることも
このように、「あわよくば」は“本心をぼかす言い方”として使われがちになり、皮肉めいたニュアンスや腹黒さが投影されやすくなったと言えるでしょう。
「あわよくば」の使い方と具体例
「あわよくば」は、日常会話からビジネスシーンまで幅広く使われる言葉です。
しかし、その微妙なニュアンスゆえに、使い方次第で印象が大きく変わる言葉でもあります。
ここでは、実際の使い方をいくつかの場面に分けて見ていきましょう。
日常会話での使用例
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「あわよくば、連休に旅行できたらいいなと思ってて」
→ 予定が未定であっても、希望は持っているという控えめな言い方。 -
「あわよくば、告白しようかなとは思ってる」
→ 本気だけど照れがあり、やや遠回しに伝えている。 -
「あわよくば宝くじ当たらないかな〜」
→ 完全に運任せの淡い期待を表現している、カジュアルな使い方。
ビジネスでの使用例
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「この提案、あわよくば来期の予算に組み込めると理想的です」
→ 過剰な期待を避けつつ、前向きな意向を伝える上品な表現。 -
「あわよくば、今月中に仮契約まで進められればと思います」
→ 押しつけがましくならず、希望をさりげなく伝える。
このように「あわよくば」は、強い主張を避けたいときに便利な“言葉のクッション材”になります。
誤解を避けるための言い換え表現
「あわよくば」は便利な言葉ですが、「欲深い」「下心がある」と誤解されないようにしたい場合は、
場面に応じて、もう少しストレートな表現に置き換えるのも有効です。
言い換えの例
あわよくばの言い換え | ニュアンス |
---|---|
できれば | シンプルで曖昧さが少ない |
可能であれば | 丁寧でビジネス向け |
状況が整えば | 控えめだが明確 |
運が良ければ | 期待度を下げて、気楽な印象に |
ゆくゆくは | 長期的な希望として表現する |
たとえば、「あわよくば昇進を…」よりも、
「できれば将来的には昇進も視野に入れています」といった言い換えのほうが、
より誠実で分かりやすい場合もあります。
まとめ|「あわよくば」は慎ましやかな希望のことば
「あわよくば」は、
一見“ちゃっかり”した印象を持たれやすい言葉ですが、
もともとは強く望んでいるけれど、それを正面から言うのは遠慮したいときの、控えめな希望表現です。
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誤解:ずるい・打算的・軽い願望
-
本来の意味:控えめな期待・可能性への慎ましい願い
このような言葉には、日本語ならではの「奥ゆかしさ」や「建前と本音の距離感」が色濃く表れています。
ただし、時代とともに「腹黒さ」や「下心」を連想させるような使われ方が広まりつつあるのも事実です。
そのため、使う場面や相手に応じては、言い換え表現やトーンに気を配ることも大切です。
言葉は使い方次第。
「あわよくば」を上手に使いこなせば、押しつけがましさを避けつつ、希望を丁寧に伝えることができる便利な表現になります。