「目鼻をつける」という表現は、特に年配の人や文章の中ではよく見かけるものの、いざ意味を聞かれると「何となく“落ち着いてきた”って感じ?」「目と鼻って、顔のこと?」と、ぼんやりした印象を持っている人も多いかもしれません。
実はこの言葉、日本語の面白い感覚とたとえが込められた表現で、ある物事が“かたちを帯びてきた”状態を指す、とても便利な言い回しなのです。
この記事では、「目鼻をつける」の意味や語源、実際の使い方、似た表現との違いなどをわかりやすく解説していきます。
聞いたことはあるけど、きちんと使ったことはない——そんな方にもきっと役立つ内容になっていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
「目鼻をつける」の意味と使い方
たとえば、仕事のプロジェクトにおいて「大まかなスケジュールが決まった」「方向性が見えてきた」状態で、「ようやく目鼻がついてきたね」といった使い方がされます。
日常生活でも、たとえば引っ越しの準備や旅行の計画など、「まだ細かい部分は決まっていないけれど、全体像は見えてきた」という場面にピッタリの表現です。
この言葉には「完全な完成」や「問題解決」というニュアンスはなく、「物事がある程度進展して、整理がついてきた」状態にぴったりの言い回しとして使われます。
類似する表現として「めどが立つ」や「方向性が見える」といった表現もありますが、「目鼻をつける」は比喩的な言い回しで、やや文語寄りの印象も持ち合わせています。
この言葉の語源や由来について
もともとは、何も描かれていない人形や仏像、あるいは絵画などに「目」と「鼻」を描き加えることで、ようやく“顔らしく”なることから生まれた表現です。
つまり、「目鼻がついた状態=おおよその輪郭や基本が整った状態」というわけです。目と鼻という人の顔の中心となるパーツを描き加えることで、それまで漠然としていたものが急に“それらしく”見えてくる感覚を指しているのです。
江戸時代の文献などにもすでに登場しており、当時から「全体像が定まってきた」という意味で使われていたことがうかがえます。
このように、「目鼻をつける」は視覚的な比喩を用いた、非常に日本語らしい情緒と感覚を含んだ表現なのです。
日常会話やビジネスでの使用例
たとえば、家庭での使用例:
- 「引っ越しの準備、ようやく目鼻がついてきたよ」
- 「あの件、子どもたちの予定が決まったから目鼻はついたかな」
ビジネスシーンでの使用例:
- 「今期の予算案、なんとか目鼻をつけて来週の会議に出せそうです」
- 「クライアント対応、進捗の目鼻がついた段階で再報告してください」
このように、「まだ完成ではないが、全体像が見えてきた」「方向性が整ってきた」という文脈で使われることが多いです。
やや文語的な響きがあるため、かしこまったメール文や報告書などでも違和感なく使え、語彙に幅を出したいときにも便利な表現です。
「目処を立てる」との違いは?
「目処を立てる」は、「達成の見込みが立った」「ある程度ゴールが見えてきた」ことを意味します。たとえば「納期の目処が立った」「完成の目処がついた」というように、ある程度の目標や終点が視野に入ったときに使われます。
一方で「目鼻をつける」は、まだそこまで明確ではないが「全体のかたちがようやく整ってきた」という、途中段階における整理や方向づけを指します。
言い換えれば、「目鼻をつける」は“構想段階での整備”、「目処を立てる」は“実行段階での見通し”というイメージです。
両者は似ているようで、使うタイミングや文脈が微妙に異なるため、使い分けることで言葉の精度がぐっと上がります。
誤用しやすいポイントと注意点
たとえば、「完全に解決した」「すべてが終わった」といった完了形の意味で使うのは不適切です。「目鼻をつける」はあくまで“途中経過”や“輪郭が見えてきた”状態を表すものであり、完了や成果を意味するわけではありません。
また、類義語の「めどを立てる」や「区切りがつく」と混同してしまい、「納品が終わったので目鼻がついた」といった表現をしてしまうと、文意としてはズレが生じます。
口語では「目鼻がついた」という表現が多く使われますが、「目鼻がつく」「目鼻をつける」といった動詞の使い方にも注意しましょう。前者は自然な表現ですが、後者はやや形式的で報告書などに向いている表現です。
こうしたニュアンスの違いを理解したうえで使えば、「目鼻をつける」は文章にも会話にも活かせる、表現力のある言い回しになります。
まとめ
語源をたどれば、顔のパーツを描き入れて「それらしくする」ことからきており、イメージとしても非常にわかりやすく、視覚的な比喩が効いた日本語らしい表現といえるでしょう。
似た言葉と意味が重なる部分もありますが、「目鼻をつける」ならではの“まだ途中だけど道筋が見えた”というニュアンスは、丁寧に言葉を選びたいときにぴったりです。
ぜひ、文章や会話の中で上手に使ってみてください。言葉の背景を知ることで、表現の幅もぐっと広がりますよ。